第204回:求職者・企業間の「相思相愛」

11月に入り、東南アジア諸国連合(ASEAN)が注目されています。先日はカンボジア・プノンペンでASEAN首脳会議が開かれました。岸田文雄首相も参加し、来年に日本とASEANが友好協力 50 周年を迎えることを踏まえ、東京での特別首脳会議の開催を表明しました。

ASEANは今回の首脳会議で、東ティモールの加盟を認めることで基本合意しました。具体的な加盟時期は未定ですが、これによりASEANは 11 カ国体制となります。

15 日~16日にはインドネシア・バリ島で 20 カ国・地域首脳会議(G 20 サミット)も開催されました。日本の外務省によるとASEANの人口は6億 7,333万人(2021 年)で、人口構造も若者が中心の国が多いことから、潜在的な経済成長力が大きい地域です。

政治・経済的に注目されている東南アジアですが、日本では「就職先」としても注目されています。最近メディアでカンボジアのカレー店で働く若い日本人の特集が組まれていました。域内で事業に成功した日本人のニュースも耳にします。

日本の平均賃金は過去約 30 年でほぼ横ばいといわれており、世界から取り残されています。こうした状況に嫌気がさし、海外で働きたいと思う人が増えているのは事実です。

また、タイやフィリピンなど東南アジアを旅行した経験がある人が文化の多様性に引かれ、実際に現地で仕事をしながら生活してみたいと思うことも少なくないと思います。

以前は、東南アジアに進出する日系企業の間で「現地採用」を活用する動きが多くみられました。海外で働きたいという日本人をある程度安い給料で雇用しても、求職者と企業の間で「相思相愛」のような関係が続いていました。

物価も日本よりは安く、現在のような劇的な円安傾向ではない時には「住みやすさ」がありました。例えばシンガポールでは、約 15 年前には月給 2,500 Sドル(現在のレートで約 25 万円6,000円)程度で就労ビザが下りていたため、気軽にシンガポールで働いてみようと考える日本人が多く見受けられました。

しかし、就労ビザを取得する為の条件は年々厳しくなっています。新型コロナウイルス禍で経済が低迷し、各国の失業率が上昇したことで就労ビザ取得のハードルがさらに上がり、外国人が働きたくても働けない状況が生まれています。

シンガポールでは大卒以上であれば月額給与に加え、住宅手当を合算すれば就労ビザを取得できるケースもあります。

ただ、住宅手当が合算できない場合は給与一本で就労ビザを申請することになりますが、その場合は「すし職人」「板前」など職人技術を持つ人や、弁護士、会計士、税理士をはじめとする「士業」といった専門職でないとビザ取得は難しくなります。

一般的な事務職や営業職については、国民の雇用が優先されるため就労ビザが下りないケースがほとんどです。インターンやワーホリ制度を利用してシンガポールに来る若い日本人もいますが、アルバイト以外の職務経験がない人が多く、飲食・流通企業での登用が目立ちます。

実際にはオフィスでの業務を希望しているケースもありますが、受け入れ企業側は「即戦力」を求める傾向があり、残念ながら「相思相愛」の関係にはなっていません。

国民の雇用優先策は必要かもしれませんが、東南アジアでの就職を希望する日本の若い人材に少しでも門戸を開いてくれることを期待します。

弊社斉藤連載中Daily NNA 2022年11月24日号「シンガポール人「財」羅針盤」

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。