第45回 人事担当者のお悩み その5 EP取得の費用について

久しぶりに春の東京に来ています。3月から4月にかけては三寒四温で時には暑く感じ時には震え上がるような寒さの繰り返しで体調管理が大変です。

ただ暑季と雨季しかない東南アジアに比べれば四季がある日本は自然環境面では恵まれていると思う時があります。

「さくら」もまだ満開でないものの、東京の上野近辺を通りますと、日本人というよりは、外国人が目立ちます。

中国や韓国だけでなく、ヒシャブ(イスラム教徒の女性が首の周りに巻くショールみたいな布)をつけているインドネシア人や、どう見てもタイ人の集団や日本への観光ビザ免除になった東南アジアの国々の観光客が目立ってきました。

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さて、今回のお悩みは、とある日系企業で働く日本人女性Xさんからのクレームを受け判断に困った人事担当者のお悩みです。

当該Xさんはシンガポールに長く働いている方で、日系企業以外でも地場系ローカル企業、欧米系外資系企業での勤務経験がある方で、会社の箱にはこだわらず、どちらかと言うと職人気質を持っておりキャリアを積み上げてきました。

Xさんはシンガポールに長いものの残念ながらPR(永住権)の申請は却下されており、シンガポールで合法的に仕事をする上で労働許可証は不可欠です。

Xさんの場合は日本では短大卒で海外のカレッジを出ていますがカテゴリーとしては「大卒」ではありません。

その関係上、職歴は長いものの、EPが下りないケースもあり、その場合はSパスを取得して勤務をしなければなりません。

周知の通り、シンガポール政府は外国人の流入規制を進めており、昨年の総選挙で与党が圧勝し、規制が緩むとの期待感はあるものの、引き続きEPに関しては大卒でも企業力(払込資本金)や給与額に応じて認可されるので余談を許しません。

EPの取得は現在、外国人労働者に取って最大の懸案事項で、人材紹介ビジネスを行う業者に取りましても労使双方が合意に至ってもシンガポール政府がNOの場合、人材紹介の成功報酬が入らず此方も死活問題になりかねません。

このXさんは時代の流れとともに、EPやSパスの取得を繰り返しており、今回も数回目の転職です。

この日系企業はポリシーとして、就職希望者はVISA取得費用に関しては全て自己負担となっており、Xさんは企業が申請した費用(申請料と発行料)を入社後に伝えられ、今までの数社の経験上あり得なかったものから、企業にクレームをしました。

雇用契約書にも一切書かれておらず、判断は「会社のポリシー」となっており、Xさんは猛クレームしましたが、覆らず、入社後も会社に対して不信感が残る形となりました。

この企業の人事ポリシーとしては、入社前に関わる費用は全て「社員負担」となっており。新入社員が負担するのは当たり前なのでは?というお悩みでした。

EP取得に関わる費用は、「入社させてあげる」か「入社して頂く」かによって企業ポリシーが違います。

考えようによっては、現地の社員であれば入社時にVISA取得費用は一切掛らないことから、入社時の「例外」は認めないということもあります。

外国人、特に日系企業では日本人限定の募集であれば、企業がEP取得に関わる費用を採用経費の一部として計上しておく必要もあり、また、数年シンガポールで勤務してきた経験者を採用する場合は雇用に関しての事前の説明は行う必要はあります。

現地採用社員の場合は雇用契約書に書かれた事項以外の負担に関してはとても敏感です。ここまで細かく就業規則に書き込む必要はありませんが、全てにおいて社員の費用負担の有無に関しましては、ハッキリしておくことが肝要です。

Daily NNA 2016年3月31 日号「東南アジア人「財」羅針盤」より抜粋

コラム執筆者

斉藤 秀樹
斉藤 秀樹プログレスアジア 代表取締役
1966年東京生まれ。大学卒業後、小売・流通チェーン「ヤオハン」に就職。1993年より香港本社へ転勤後一貫して人事に携わる。同社清算後も大手人材紹介会社「パソナ」のタイ現地法人社長を務めるなど複数社で人事・経営に携わる。
2006年、タイ国立マヒドン大学経営大学院にて経営学修士取得後、シンガポールにグッドジョブクリエーションズを設立、2014年に同社売却。
2014年6月、シンガポールに、プロの人事集団「プログレスアジア・シンガポール」を設立。真に東南アジアでビジネスを展開する中小企業をサポートすることを使命に再び起業の道を歩む。